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2024.03.19

Monthly Feature

クリエイティブにおけるAIの課題と可能性・広告への活用事例を解説

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クリエイティブ分野におけるAI(生成AI)の活用が広がっています。この記事では生成AIの現状と課題、効果的な使い方、クリエイティブにおける可能性について解説するとともに、広告クリエイティブへの活用事例を紹介します。

Contents

クリエイティブへの活用が広がる生成AI

デザインやマーケティングの分野において、生成AIを活用する動きが急速に広まっています。文章・画像・動画・広告などを制作する過程での活用です。
生成AIはイメージや仕様を言葉で指示することによって目的とする制作物が得られます。
そのため、制作工程を省いて納期短縮を図ることや、AIの意外性をクリエイティブに活用するなどの方向性が見られます。
生成AIは画像・動画・音声・音楽・コードなどの目的別に存在しますが、とくにテキスト生成AIと画像生成AIについて解説します。

テキスト生成AI(ChatGPTなど)


自然な文章が作成できる「テキスト生成AI」として、最初に脚光を浴びたサービスがOpenAI社のChatGPTです。

ChatGPTは主に次のことができます。
● 質問に答える
● 自然な文章を生成する
● 文章を要約する
● 翻訳する
● コードを記述する

たとえば通常、商品コピーの洗い出しには現場のコピーライターが何度もブレストする工程が伴います。しかしChatGPTを使用すると、「100個リストアップして」の一言で数十秒で洗い出しが可能です。
自然言語処理(NLP)によって、曖昧な言葉や文章が入力されても妥当な回答を返します。
しかし質問によっては意図しない回答や、誤った情報が返されかねません。
そのため、クリエイティブ現場で活用する際は制作物の特徴・仕様・目的などを具体的に伝える必要があるでしょう。
また後述しますが、納品物として生成AIをそのまま使うことは著作権上の問題などで避けられていますので、ご注意ください。

画像生成AI


画像生成AIはイメージを言葉で指示することによって画像を生成するAIです。画像制作工程の省力化や、AIならではの画像生成に威力を発揮します。

画像生成モデルの代表的なものとしては以下が挙げられます。
● DALL・E2
● Midjourney
● Stable Diffusion
OpenAI社のDALL・E2は、生成した画像のバリエーションを作成することや、部分的な入れ替え・背景の追加などが可能なモデルです。(2024年3月現在の最新版はDALL・E3)

ChatGPT・Copilot・Gemini以外の画像生成AIの一例(2024年3月現在各サービスサイトで明記されているもの)
● StableStudio:Stable Diffusion
● Canva:Stable Diffusion
● Adobe Firefly:Firefly Image 2

現状一部広告クリエイティブでは、画像生成AI独特の特徴をそのまま完成品として出稿する動きはあります。ただし、現段階ではテキスト生成AIと同様、法的リスクから「すべての工程をAIに任せる」ことが難しい状況です。
法的観点が確立していない昨今では、納品物のラフやアイデアを共有する際のとっかかりとしての活用例が無難でしょう。

クリエイティブにおける生成AIの課題

画像生成AIは2022年にリリースが相次ぎ、2023年〜2024年に一般化してきたという状況があります。しかし、クリエイティブにおいて生成AIは法的整備が未成熟ということもあり前例が少なく、利用上の問題や課題を抱えています。

AI利用に関する誤解


AIは捉えにくいシステムであり、さまざまな誤解があります 。下記のような過小・過大な評価もあります。
● 使ってみて役に立たなかった → AIは使えない
● 予想以上の結果が得られた → AIはなんでもできる

たとえばChatGPTの基本的なテキスト生成では 、事実でない回答も含まれます。事実の整合性に関する欠点を補うには人力目視による チェックが必要です。

AIツールの利用制限


AIツールは無制限に利用できるものではなく、何らかの制約がある状況です。
個人向けのサービスでは商用利用が制限されている場合があります。
画像生成AIでは出力サイズや画質の制限など、制作物自体の制約があるとともに、出力された画像の内容によっては権利を侵害するものがあるなど、使用時の配慮が必要です。

著作権の問題


生成AIが学習するデータに著作権上の問題がないわけではありません。
既存の作品やコンテンツを学習データとして使っている場合、知らず知らずのうちに酷似した制作物を創ってしまうことになり、著作権や肖像権侵害の可能性が生じます。
またツールによっては、学習データが公開されていません。そのため、出典を明らかにすることが難しい状況です。

クリエイティブの過剰供給


生成AIは複雑な指示にも瞬時に答えを返します。多くの回答は数秒〜数十秒のうちに明らかになり、複数の回答も取得可能です。
ライターやイラストレーターの作品など通常は時間のかかる制作物でも、生成AIに要求すれば瞬時に、いくつでも得られます。
このようなことから、作品が簡単に過剰供給・消費され、作り手のモチベーション減退、担い手不足に陥ってしまう懸念があります。

その他の課題


機械学習されたデータに、特定グループの人々(年齢・性別・嗜好など)の情報が多く含まれている場合、生成されたクリエイティブがその影響を受けかねません。
また、フェイクコンテンツやディープフェイク(なりすまし)の問題と対応についても課題です。「本物だ」と思わせる偽の作品、実在の人物による発言だと思わせる偽の動画など、巧妙に作られたビジュアルが権利を脅かしています。

クリエイティブの仕事がAIに奪われる?

クリエイティブにおけるAIの影響は、加速が進むでしょう。クライアントが生成AIに依頼して成果物を得られるなら、クリエイターや専門家は要らないことになります。
しかし現時点では、AIが人間の細やかで正確な仕事を代行するのは難しい状況です。AIに指示を出すのにもテクニックが必要であり、クリエイティブの仕事がただちに奪われるわけではありません。ただし、省力化目的での導入はすでに行われており、ワークフローには影響を与えています。

クリエイティブにおけるAIの効果的な使い方

AIはどのようにクリエイティブに活用すればよいでしょうか。効果的な使い方として考えられるのは次のようなことです。

● 時間のかかる定型的な作業にAIを使用して制作時間やコストを削減する
● 訴求するクリエイティブをAIで論理的に生成する
● 多くの試作をAI生成してベストなクリエイティブを選定する


制作物の価値向上のほか、ビッグデータを活用して広告に最適な条件を持ったクリエイティブを抽出するというアプローチが有効です。

広告クリエイティブにおけるAIの活用事例

広告の場合は膨大な市場データを活用することがポイントとなるでしょう。
消費者やユーザーの数、売上や販売数、競合の情報など数値化された情報を活用してクリエイティブを最適化します。

クリエイティブなアートワークを生成する


既存のデータを学習させ、類似の実在しないデータを生成するGAN(敵対的生成ネットワーク)を利用して、どこにもない新しいアートワークを創り出すというアプローチがあります。
たとえばある広告会社が提供するAIでは、多様な人物モデルを提供しています。これによって従来、広告に登場する人物の選定や権利の確認が必要だったワークフローを不要にし、必要な条件にマッチする架空の人物モデルが得られます。

マーケティングデータを分析する


ユーザーの属性や行動履歴を組み合わせて、特定の条件に当てはまるカテゴリへ広告を配信する手法(オーディエンスターゲティング)は、作業の多くを手作業で行っていました。
ネット上のサーバーに蓄積されるビッグデータを一元管理するDMP(Data Management Platform)を使用することで、オーディエンスターゲティングが迅速化されます。
DMPによって、従来のマーケティングツールにはできないこと、つまり顧客やサイト訪問者ではないユーザーへの広告配信や、顧客になる前の情報を連携できます。

広告運用にビッグデータを活用する


リスティング広告・バナー広告・コンテンツマーケティングなどに必要なクリエイティブ要素(キャチコピー・文章・画像)を決めるために、ビッグデータの分析結果を活用します。
これによって、従来はA/Bテストを繰り返すなどの作業にかかっていた時間や手間を省き、直接的にクリエイティブを生成可能です。

そのほか、感情認識AIよる動画広告の最適化や実店舗向けのターゲティング広告の制作など、ビッグデータの活用がすでに試みられています。

クリエイティブにおけるAIの可能性

AIをクリエイティブに適切に活用することで、従来は不可能だったクリエイティブが可能になります。大きくは次の3つの可能性が考えられます。

存在しないものを創り出す


学習によって実在するものの特徴を把握しているAIは、条件を与えることで類似のバリエーションを簡単に作り出します。なかには、特徴が似ているだけで実在はしないものも生成します。

たとえば、ストーリーや人物・動物、架空の世界などをAIで生成可能です。さらに、人間が創造力を働かせてAIに条件を与えると、思い描いたものや、想像以上のものを提供してくれます。
前述のような人物モデルは広告以外にも、アパレル向けのファッションモデルに展開した例もあり、市場を作り出しています。

大量のデータを扱う


AIのメリットはビッグデータを活用している点です。
マーケティングにおいても、蓄積されている社内外にある大量の広告実績データを元にして、特定のターゲットに適した広告を抽出できます。

広告会社で開発された「バナー自動生成ツール」があります。広告バナーのクリエイティブとクリック率の実績値から、ディープラーニングを用いてターゲットユーザーに最適なバナー1枚を数秒で作成可能なツールです。ビッグデータの活用によって、広告の信頼性やパフォーマンスが向上します。

生成AIの意外性を積極活用する


生成AIは意外な回答を生成する場合があります。これを積極的にクリエイティブに取り入れ、新しい可能性を見出している例があります。

AIを活用し、実物を元にして「わざと」奇妙な画像を生成するツールの開発も行われています。生成された画像の意外性にアーティストが触発され、そこからさらに新しい作品を制作する試みが見られています。

まとめ

クリエイティブ分野における生成AIの活用はまだ始まったばかりです。ビッグデータを利用した分析は広告やクリエイティブの分野にプラスの要素をもたらしていますが、現状はさまざまな誤解や、著作権などの法的な課題があります。

キーワードは共創。現状は様子見な部分が大半ではあるものの、人間の処理量を越えるAIのパフォーマンスによって、将来的にはクリエイティブの可能性を広げることが期待できるでしょう。